2026年4月29日にリリースされたばかりの中国産オープンワールドRPG『NTE: Neverness to Everness(ネバーネス トゥ エバーネス)』が、生成AIの使用疑惑で大きな波紋を呼んでいます。さらに、世界的な人気を誇るVTuberアイアンマウス(Ironmouse)さんが予定していたPR配信を中止すると発表したことで、騒動は一気に世界規模で拡大。
本記事では、アイアンマウスさんの人物像、ゲーム業界全体で進む生成AI活用の現状、そしてなぜ『NTE』だけがここまで炎上したのかまで、徹底的に解説します。
『NTE』とはどんなゲーム?
『NTE: Neverness to Everness』は、中国・Perfect World Games傘下のHotta Studioが開発した超現実都市オープンワールドRPGです。
- 配信日:2026年4月29日
- ジャンル:オープンワールドRPG(基本プレイ無料/アイテム課金制)
- 対応機種:iOS / Android / PC / コンソール
- 開発:Hotta Studio(Perfect World傘下)
- 特徴:Unreal Engine 5による都市表現、アニメ調ビジュアル、車両移動や店舗経営要素
プレイヤーは「異象(アノマリー)」が日常化した架空都市ヘテロシティで、骨董品屋「エイボン」の鑑定士として怪奇事件を解決していくという独特な世界観が魅力。リリース直後から「アニメ調GTA+原神」と評されるなど一定の話題を集めていました。
発端:『天気の子』との酷似指摘から疑惑が拡大
騒動の発端は、海外コミュニティを中心にX(旧Twitter)上で拡散された投稿です。
ゲーム内のとある映像が、新海誠監督のアニメーション映画『天気の子』の場面に酷似していると指摘されたのが始まりでした。海外ユーザー@HSC_Eziem氏は「『天気の子』のショットを盗用し、AIに通したものではないか」と問題提起。これがきっかけとなり、ゲーム内の他のアセットにも疑惑の目が向けられることになります。
ゲーム内の至る所に「生成AI使用疑惑」
調査が進むにつれて、以下のような要素が「生成AIで作られた、もしくは加工されたのではないか」と指摘されるようになりました。
- 街中に掲示されているポスター
- 建物の装飾画像や写真
- 映画館で視聴できる劇中映像
- NPCの顔立ちが均質的で不自然
とくに「既存作品の画像を生成AIで加工したのでは」という指摘や、「AI特有の不自然な描写」が見られるという声が相次ぎ、騒動はSNS上で爆発的に拡散しました。
アイアンマウスとは何者?騒動を世界に広げた“TwitchサブスクNo.1 VTuber”
今回の騒動でキーパーソンとなったアイアンマウス(Ironmouse)さん。日本では「海外の有名VTuber」程度の認識かもしれませんが、その影響力は世界トップクラスです。
アイアンマウスの基本プロフィール
- 出身:プエルトリコ(米国自治連邦区)
- 活動言語:英語(母語はスペイン語、日本語・韓国語も少々)
- キャラ設定:地獄から脱出してきた悪魔の女王(年齢6669歳・身長147cm)
- 活動開始:2017年〜(Twitch・YouTube)
- 所属:2020〜2025年VShojo所属/現在は個人勢
- YouTube登録者数:約168万人
- Twitchフォロワー:200万人以上
「Twitchで最もサブスクされる女性配信者」という伝説
アイアンマウスさんがただの人気VTuberでない理由は、その圧倒的な実績にあります。
- 2022年2月:Twitch全チャンネルで最多のアクティブ有料サブスクライバー数を記録
- 2023年:Streamer Awardsで最優秀VTuberを受賞
- 2024年:Twitchサブスクライブ数で世界1位を獲得
- サバソン記録:31日間(約720時間)連続配信を達成
つまり、彼女は「Twitchで最もお金を払ってでも応援したい」と多くの人に思われている配信者であり、その発言には極めて強い波及力があります。
難病と闘いながら活動を続ける配信者
アイアンマウスさんは分類不能型免疫不全症(CVID)という難病を抱えており、ほぼ寝たきりに近い状態で外出も困難な生活を送っています。元々はオペラ歌手志望でしたが病気で断念。「孤独で何かをしたかった」という想いから配信を始めたという経緯があります。
免疫不全財団(Immune Deficiency Foundation)への寄付活動でも知られ、自身のクラウドファンディングで約1億7000万円を集めるなど、慈善活動家としての一面も。「共感性が極めて高いタレント」というのが彼女のもう一つの強みです。
2025年のVShojo脱退騒動で得た“発言の信頼性”
2025年7月、アイアンマウスさんは所属していたVShojoが免疫不全財団への寄付金約7400万円を着服していたことを告発し、即日脱退。この告発をきっかけに他メンバーも続々離脱し、最終的にVShojoは解散に追い込まれました。
この一件で、彼女には「不正に対して妥協しない、信用できる発言者」というイメージが定着。今回の『NTE』PR配信中止表明が大きな影響力を持ったのも、この前提があってこそです。
アイアンマウスの『NTE』PR配信中止発表
2026年5月4日の配信内で、アイアンマウスさんは『NTE』のAI使用疑惑を知った後、「人生で一番早いアンインストールだった」とコメント。予定していたPR配信を取りやめることを正式に表明しました。
「AIは使っていない」と説明されていた
注目すべきは、アイアンマウスさん自身が以下のような事実を明かした点です。
事前に、開発元から広告代理店に対して「AIは使っていない」と説明されていた
つまり、インフルエンサーへの説明と実態が食い違っているのではないかという問題に発展。外部クリエイターやインフルエンサーへの説明責任という、ゲーム業界全体に関わる構造的な課題まで波及しています。
【重要】ゲーム業界では生成AIの活用がすでに当たり前に
ここで誤解してはいけないのが、「生成AIを使うこと自体が悪」ではないという点です。実は世界のゲーム開発現場では、生成AIの活用がすでに急速に進んでいます。
Steam新作の約3割が生成AIを利用
AI Frog Interactive代表・新清士氏のCESA講演(2026年2月)によると、Steamで2025年にリリースされた作品の約21%、2026年1月末までにリリースされた作品では約30%が生成AIを利用していると開示されています。
さらに「GDC 2026」での3,000人以上のゲーム開発者への調査では、個人で36%、会社で52%がAIを使用しているという結果も出ています。
大手ゲーム会社の生成AI活用事例
具体的に、どんな会社がどう活用しているのかを見てみましょう。
- カプコン:Google CloudのGeminiやImagenを活用し、ゲーム内オブジェクトのアイデア出しを効率化。数十万件のアイデアを短期間で自動生成するシステムを導入
- セガ:キャラクターの衣装・カラーリング・装飾パターンの検討段階で生成AIを活用(最終仕上げは人の手)
- サイバーエージェント/Cygames:「AIテクノロジー」専門チームを設置し、開発全般の効率化を推進
- スクウェア・エニックス:個性を持った合成音声などへの生成AI活用
- バンダイナムコエンターテインメント:「ClipSearch」で膨大な映像資産から目的のシーンをAI検索
- 電通ゲームセンター:Adobe FireflyとGPT-4oを組み合わせた完全AI生成ゲームの実験プロジェクト
「アイデア出し・効率化」での活用が主流
注目すべきは、これらの大手の活用方法はあくまで「アイデア出し」「企画初期の検討」「業務効率化」に留まっており、最終的なゲーム内アセットは人間のクリエイターが仕上げるというのが基本方針である点です。
これは「AIによるアウトプットをそのままユーザーに見せる」のではなく、「クリエイターの創造性を拡張する補助ツール」として位置づける考え方で、ガイドラインやトレーサビリティ(出所追跡)の整備とセットで運用されています。
では、なぜ『NTE』はここまで炎上したのか?
業界全体で生成AI活用が進んでいるにもかかわらず、なぜ『NTE』だけがここまで叩かれているのか。理由は明確です。
1. 「既存作品の盗用+AI加工」という最悪の組み合わせ
『天気の子』を含む既存アニメ作品との類似指摘と、生成AI疑惑が同時発生。生成AIで作成されているかは不明ですが、これは「アイデア出しに使う」という一般的な業界活用とは全く別次元の問題で、著作権侵害の疑いまで含む深刻なケースです。
2. 欧米における“社会的受容”の差
新清士氏の指摘によれば、生成AIの社会的受容は欧米・日本・中国で大きな差があり、特に欧米では「クリエイティブを壊す」という認識が強いとされます。昨年は『Clair Obscur: Expedition 33』がThe Indie Game Awardsで生成AI絡みの理由から受賞剥奪された事例もあり、海外プレイヤーの目は非常に厳しい状況。
3. 大物VTuberアイアンマウスの離反というインパクト
前述の通り、Twitchサブスク数世界1位の実績を持ち、不正告発で信頼を獲得しているアイアンマウスさんの「AIを使った」「説明と違う」という発言は、英語圏において決定的な影響力を持ちました。
Hotta Studioの公式対応は?
2026年5月6日現在、開発元のHotta Studioからは生成AI使用に関する公式な声明は発表されていません。一方で同社は、5月1日に違反アカウントへの措置処分を発表するなど、ゲーム運営自体は通常通り進行しているようです。
過去にHotta Studioが語っていた「AI利用方針」も改めて注目を集めており、開発元としてどのような説明をするのかが今後の焦点となります。
今後の展開と注目ポイント
本騒動で今後注目すべきポイントを整理しておきます。
- Hotta StudioもしくはPerfect World Gamesからの公式声明の有無
- 該当アセットの差し替え・修正対応(『紅の砂漠』のように後から差し替えるケースも)
- 他のVTuber/インフルエンサーによる態度表明
- 新海誠監督側、東宝など権利元からの反応
- Steamのストアページにおける生成AI使用表示の有無
- 中国国内および海外での売上・プレイヤー数への影響
まとめ:生成AIの“使い方”が問われる時代
『NTE: Neverness to Everness』をめぐる生成AI使用疑惑とアイアンマウスさんのPR配信中止は、単なる一ゲームの炎上にとどまらず、ゲーム業界における生成AIの利用、既存IPの扱い、インフルエンサーへの説明責任という、現代エンタメ業界が直面している課題を凝縮した事例と言えます。
大手各社が生成AIを「アイデア出し」「補助ツール」として慎重に使い始めている一方で、『NTE』の事例は「使い方を誤ると、いかに深刻な反発を招くか」を示す警鐘となっています。
カギになるのは、透明性(使ったことを開示する)、独自性(既存作品の流用ではなくゼロから生成する)、そしてクリエイターによる最終的な仕上げ。この3つを欠いたAI活用が、今回のような炎上を招くということです。
しかし、Hotta Studioからは生成AI使用に関する公式な声明は発表されていません。実際には使用されていない可能性もあります。
続報があり次第、本ブログでも追記していきます。
※本記事は2026年5月6日時点の情報に基づいて作成しています。
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